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「文体練習」
レーモン・クノー/朝日出版社刊

2007.7.25

レーモン・クノーの「文体練習」というこの本のことをぼくに教えてくれたのは、編集者の平林享子さん。一緒に取り組んだ仕事の打ち合わせの中で、平林さんお気に入りのデザインとして紹介してくれた一冊だった。扉にも登場している二人の男にまつわる些細な出来事が、およそ100通りの文体で書き分けられている。原書はフランス語を学ぶ際の格好のテキストとしても有名な本なんだそうだ。松岡正剛さんの「千夜千冊」にも取り上げられていて、あの編集工学の提唱者・松岡正剛氏が「それにしても、ものすごい編集手腕である」と絶賛をするほどの書物なのだ。たしかに文句なしに面白いし、何と言っても翻訳が秀逸。それぞれにクセのある文体がこんな見事な日本語に置き換えられてしまうなんて脱帽ものである。
しかし驚いたのはそれだけではない。造本と本文レイアウトを担当した仲條正義さんの仕事ぶりがこれまた素晴らしい!テキストごとにクノーの技に拮抗するような実験的試みが展開されていて、ページを開くとついつい引き込まれてしまうことになる。墨と赤2色による配色、そして書体や文字組といった限られたツールを駆使して、ほぉ〜、今度はこうきましたか、という感じで次々とレイアウトの技を繰り出してくる。まるでこれでは「文体練習」ならぬ「視覚配置練習」ではないか。二重の練習本となっているわけだ。なるほど造本にもこんな可能性があったのかと感心させられ、仲條さんの衰えることを知らないラジカルで洒脱な試みについ心が踊ってしまう。時空を越えて、原作者と翻訳者、それに装幀家の三者がまるで並走するかのようにしてつくりあげられたこの小粋な本は、所有する者をなんとも幸せな心持ちにしてくれるのだ。