Three from the top
Live from Music Hall of Williamsburg
Live st KEX Hostel Iceland Airwaver ‘11
Three from the bottom
from “Leaning Towards Solace”
Sigur Rós Valtari Mystery Films

アイスランドミュージックは冷たくない

Of Monsters and Men
2013.1.01

新しい年がはじまった。今日はいつも真っさらで、昨日を薄いヴェールで覆っていく。折り重なった過去は輪郭を次第に滲ませながらセピアトーンへと変色し、そこにノスタルジーが醸成されていく。ノスタルジー(仏:nostalgie)は未来を対象としていない。過ぎ去った時代を懐かしむその郷愁や追憶の感情は、負の部分が取り除かれた個人的な嗜好を反映したイメージとして再構成されていく。

先日、中沢新一さんがススメてくれた映画を観る。iTunes Storeからレンタルした、ウディ・アレン(Woody Allen)監督の「ミッドナイト・イン・パリ(Midnight in Paris)(2011年公開)」。ハリウッドの売れっ子脚本家が、憧れていた1920 年代のパリに彷徨い込むロマンティック・コメディだ。ぼくが好きな当時の芸術家も大勢登場していて、ソックリさんよろしくさまざまな俳優が見事に演じているので、まるでタイムスリップしたような気持ちになって楽しんだ。コール・ポーター(Cole Porter)も素敵だったし、ダリ(Salvador Dalí)なんか笑ってしまった。とてもユーモアにあふれた「パリ賛歌」の作品だったが、エンディング近くで主人公がこんなことを言っていた。

「現在はいつだって退屈な時代だ。現在から逃げて黄金時代に行きたいと願う。人はいつも別な時代に憧れるようになる。」そして、こう続ける。「“現在”って不満なものなんだ。それが人生だから」「何か価値あるものを書こうと思ったら幻想は捨てるべきなんだ。過去への憧れもその1つだよ」

幻想を捨てることは本当に難しい。幻想を持たないと前に進んでいけないと錯覚したり、夢や希望がいつのまにか幻想にすり替わってしまうことだってある。確かに今は退屈なものだ。でもぼくらが生きているのは、いつだって今でしかないってことを忘れてはいけない。

例えば、退屈きわまりない現在の音楽状況。J-POPは青年の主張みたいな青臭い歌詞を、トレンディなサウンドに乗せたものが多くてどれも代わり映えしない。海外のミュージックシーンだって、美味しいところ取りのアソートミュージックばかりで、もううんざり。しかしだからといって、あの頃の音楽は混じりけがなくて輝いていたよなー、なんて決して嘆いてはいけないのだ。心に音楽が届いてこないと嘆く前に、もっともっと耳を澄ませてみよう。きっとぼくが知らないだけなんだ。そんな気持ちで伸ばしていたアンテナに、ある日届いた曲がある。

アイスランドの新人バンド「オブ・モンスターズ・アンド・メン(OF MONSTERS AND MEN)」のファーストアルバム「マイ・ヘッド・イズ・アン・アニマル(My Head Is An Animal )」の挿入歌  「リトル・トークス(Little Talks)」。これは、いい。グルーヴィーなくせにナイーブなサウンドは、まるでアマチュアバンドのような鮮度を感じさせる。ツインボーカルとツイン・アコースティックギター+電気ギター、ベースとオルガン、それにアコーデオンやトランペットが加わりドラムが締める男女混合6人組バンド。いろんな楽器を駆使して、クラシカルなのに新しい試みを展開するバンドはカナダのアーケイド・ファイア(Arcade Fire)が有名だけど、“アイスランドのアーケイド・ファイア”とも異名をとるこのオブ・モンスターズ・アンド・メンの方が断然面白い。シンプルな編成のバンドも潔くていいけれど、ぼくは昔からいろいろな楽器(とくにアコーデオンやバンドネオン、ホーンやクラリネットといった地味な楽器類)を駆使するカラフルなサウンドが好きだった。

でもこの 「リトル・トークス」の力強くて疾走感のあるサウンドに乗せて歌われているのはけっこうシリアスな内容だ。妻が認知症、または記憶障害を引き起こす病気になってしまった老夫婦を歌ったもの、あるいは亡くなってしまった夫と残された妻が交わす心の会話と、歌詞が連想させる設定には諸説あるようだが、発病する前の妻の姿がオーバーラップしてくる前者の解釈の方が興味深い。このオールド・カップルの会話として訳されたものがネットで紹介されていた。

*

Little Talks(世間話)

古くてがらんとしたこんな家をあちこち歩き回るのはもうイヤなの(妻)

だったら手をつなげばいいじゃないか 一緒に歩いてあげるよ(夫)

寝ようとすると階段がきしむから眠れやしない(妻)

きっとこの家が「お休み」って言ってるんだよ(夫)

自分が誰かわからなくなる時もあるの(妻)

そんな姿を見てるのは本当に辛いよ(夫)

昔の自分と今の自分,どっちの自分が「本当の自分」なのかは決められないけど

それでも「人生」っていう船に乗ってる限り

いずれ目的地に着くんだから

自分の中にずっともう一人の自分がいて,その人が邪魔してるの(妻)

その人に伝えてくれないか?「世間話ができくなって寂しいよ」って(夫)

だけど,じきにこんな気持ちも忘れてしまう。そして2人の思い出も一緒に消えていくの(妻)

昔はよく外で遊んだよね?毎日が充実してたし幸せだったよ(夫)

自分が間違ってるのか正しいのかわからなくなる時もあるの(妻)

気のせいだよ ちょっとヘンな気がするだけだ(夫)

昔の自分と今の自分,どっちの自分が「本当の自分」なのかは決められないけど

それでも「人生」っていう船に乗ってる限り

最終目的地には着けるんだから

私が何を言っても取り合わないで無視してね

そんなのただのたわごとで意味なんかないんだから

昔の自分と今の自分,どっちの自分が「本当の自分」なのかは決められないけど

それでも「人生」っていう船に乗ってる限り

いずれ目的地に着くんだから

もうわからなくなっちゃったんだね

君が壊れていくのをずっと見てたよ

ここにいるのはもう昔の君じゃない ただの君の抜け殻だ

2人の間には溝が出来て,何をしても元には戻らない(夫)

だからもう行かせてちょうだい そうすればまたじき会えるじゃないの(妻)

もう少しだけ待ってよ

頼むから,もうちょっとだけそのままでいて

昔の君には夢の中で会うからいいんだ(夫)

昔の自分と今の自分,どっちの自分が「本当の自分」なのかは決められないけど

それでも「人生」っていう船に乗ってる限り

いずれ目的地に着くんだから

*

この曲の間奏部に登場するホーンの女性、堂々としていてやけにかっこいい。もちろん魅力の要は女性ボーカリスト、ナンナ(Nanna Bryndís Hilmarsdóttir(絶対に覚えられそうもない))の歌声だ。私って上手に歌えるんだからモードで朗々と歌われると興ざめしてしまうけど、彼女の歌い方はとてもキュート。ひとつひとつ言葉を目の前に置いていくような歌唱法はかなり個性的だ。「Love Love Love」や「Slow and Steady」といったナンバーには、そんな彼女らしさがとてもよく生かされている。先日、Apple SiteでiPhone 5のプロモーションビデオ見ていたら、デビューアルバムの巻頭曲「Dirty Paws」のメロディが流れてきて、へぇ〜、っと思ってしまった。

アイスランドは面白い国だ。ノルウェー人とケルト人をルーツとするこのアイスランド共和国(Lýðveldið Ísland)は人口わずか32万人の島国で、北海道と四国を合わせた程度の小さな国だ。(人口は僕の居住している県のなんと3分の1にすぎない!)世界でもっとも汚職が少ない国ともいわれているが、金融立国の推進化が災いし、2008年リーマンショックで主要銀行が経営危機に陥ってしまった。急遽銀行の国営化を試みたものの、負債が国家財政規模を超えていたので債務不履行となってしまったのは記憶に新しい。その後、輸出額が増加したことで景気は次第に回復しつつあるという。また、日本と同じ捕鯨賛成国でもある。ミュージシャンではビョーク(Björk)が有名だが、彼女は声帯ポリープ治療のため、現在活動休止中らしい。ミュージシャンといえば、ぼくはこの国のポストロック (post rock) バンド、シガー・ロス (Sigur Rós)がとても気に入っている。ポストロックという用語の起源は、批評家のサイモン・レイノルズ(Simon Raynolds)の1994年に書いた記事が起源とされていて、「ロックの楽器をロックとは違う目的に使用し、ギターをリフやパワーコードのためでなく、音色や響きをつくるために使う」音楽を指しているとWikipediaで紹介されている。たしかに彼らの紡ぎ出す旋律は環境音楽のようであり、サウンドトラックのようでもある。そのファルセットヴォイスを包み込むミニマルでmelodicなサウンドには(ぼくは行ったことはないけど)アイスランドの空気感が色濃く漂っている。

ところでその彼らの4年ぶりとなる新作『Valtari(ヴァルタリ〜遠い鼓動)』のリリースに伴いスタートした映像プロジェクト、「シガー・ロスの世にも奇妙な映像実験」がすごくエキサイティングだ。コンペティションに参加した1000近くのエントリー作品の中から選ばれた映像が現在公開されている。どの実験映像もシガー・ロスの音楽に多彩な視覚的アプローチを試みている。 なかでも最終作品の「Leaning Towards Solace」が印象的。触れそうで触れない、指と指で有名な(「ミケランジェロの『アダムの創造』」)システィーナ礼拝堂天井画のイメージを介して、輪廻転生が暗示されるエンディングは切なくも、清々しい。バックに流れる『Valtari』からのピックアップ連結曲『Dauôalogn』と『Varúô』が静かに心に染みこんでくる。これは文句なしの2012年マイ・ベストソング。いつまで公開されているのかわからないけど、クレジットの末尾にある「Vimeoで見る」の下にあるアドレスをクリックすると各作品を堪能することができる。(公式サイトによれば、この映像16作品の発売が決定され、国内盤は2/20にリリースされるようだ)

というわけで、アイスランドミュージックはこのところちょっとしたマイブームなのだが、オブ・モンスターズ・アンド・メンといい、シガー・ロスといい、彼らの音楽にはまぎれもない今が息づいている。要は自分次第。ぼくがまだ知ることのない、そしてこれからも知ることがないだろう多くのものが世界にはあふれていて、退屈な現在は実はなかなか捨てたものではないのだ。そしていつだって、世界中に点在する「はじまり」から、まさに今、未来は誕生しようとしている。


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