BLOCK CLOCK
ブロッククロックスクエア。

2007.6.14

果樹王国といわれる山梨の、これから旬の果物といえばやっぱり桃だろう。
話は一転するが、今年2月のある日、突然ボスコを訪ねてきたデザイナーがいた。その人、鈴木昌尚くんは以前ボスコに勤めていたことがあった。それまで彼は東京の(株)アタマトテインターナショナル(代表 榎本了壱氏)にデザイナーとして勤務していたが、事情があって郷里の山梨に戻ることになり、求職活動を経てここボスコに入社したのだった。しかしその後、色々な出来事があって「君にはちょっと問題が多いね」と、同じく問題の多いぼくから通告され、たった1年足らずで強制退社させられることになってしまった。その後も「再就職したいからもう一度チャンスをください」とか「これからちょっとお邪魔したいのですが」とか、時々電話をもらったりしたが、その都度ぼくには「またね」とつれなく言われ、門前払いを食ってきた経緯があった。鈴木くんはそんな打たれ強くて辛抱強い人だった。
その日のアポなし訪問は「事前に連絡すると昔みたいに断られるのではないかと思案したうえ、突撃するしかないと思い実行に移し、けっこう緊張しました」と思いあぐねた上での強硬突破だったと後で知ったが、それほどまでして、どうしてぼくなんかに会いに来るのだろう。「とにかくデザイナーと話がしたかった」と、彼は言うのだが…。デザインへの思いを受け止める人が周りにいなかったということか。現在フリーペーパー制作会社に籍を置いているというそんな鈴木くんが、当日手土産に持ってきてくれたのが上の写真の「BLOCK CLOCK」という置き時計。今もパソコンの脇に置いて重宝させてもらっている。そう言えば昔もY.M.O.の二枚組CD「SEALED」をプレゼントされたことがあったけど、かわりにぼくはこれまで何ひとつあげてこなかったなぁ、と彼が帰ったあと気付くのだった。
そこでやっと桃の話に戻るのですが、鈴木くんの実家は御坂で本格的な桃栽培農園を営んでいる。桃と葡萄づくりはご両親、息子はデザインしながら農園修業中の身。ある時お父さんに勧められて作った「モモコ」という桃農園のサイトがあるから一度機会があったら見てほしいと言われ、早速見てみる。なかなかの出来栄えだったので翌日感想メールを送ると、ほどなくしてそのサイトがMovable TypeコンテストでHITACHI賞とロフトワーク賞を受賞したという報告メールが返ってきた。よかったね、鈴木くん、おめでとう。しかし、ボスコを訪れたその直後、受賞のニュースを聞くこともなくお父さんが急逝してしまったことも、後に「モモコ」のブログで知ることになる。家業を引き継ぐため修行半ばの彼は、師となるべき父の不在という辛い試練の日々を今日も送っているのだろうか。
もう決して若いとはいえない鈴木くんだけど、ずっとデザインへの情熱を彼なりに抱えてきたんだと思う。ぼくに会いに来たこともそのひとつ。「モモコ」からリンクされたサイトを見ると、デザインに寄せる彼の思いが伝わってくる。その日ぼくは冗談めかして彼に、腰を据えて桃づくりしたらと勧めてみた。半分冗談、半分本気。ぼくには逆立ちしたって桃づくりなどとてもできはしないだろうけど、「デザインしながら桃も作っています」より「必要あればきちんとデザインだってできる桃農園家」の方がはるかに未来的だと思う。鈴木くんの希望や可能性は、お父さんとの合作とも言える「モモコ」の中に、今も透けて見え隠れしている。