Below_"Tanz Walzer" Spread
Copyright : QURULI. Victor Entertainment, Inc.
ステキな再会
「ワルツを踊れ」(Tanz Walzer)を発表したQURULI(くるり)というバンドのことを、ぼくはほとんど知らない。知ってることといえば、結成以来の10年間メンバーチェンジを繰り返し、7作目となるこの最新作は残ったメンバーである京都出身の岸田繁と佐藤征史によって、ウィーンやパリで現地ミュージシャンとともに4ケ月間かけてつくられたということくらいだ。でも、そこに収められている音楽のことはよく知っている。ちょうど40年前の1967年、それこそ擦り切れるくらい繰り返し聴いていた音楽とそこで久々に再会したからだ。これは、まぎれもないぼくらの時代の上出来なポップミュージックなんだと思う。クラシック音楽に影響を受けたアルバムだという記事を以前見かけたけれど、むしろ多様なジャンルの音楽がスリリンングに編み込まれていて、クラシック音楽はそんな楽曲のひとつの要素に過ぎないんだという印象が強い。
それにしてもあれから40年後に、才能ある日本の若者のつくったこんな音楽と出会うことになるとは思ってもみなかった。最初聴いたときには何となく関西版「Moonriders(ムーンライダース)」みたいな印象だった。しかし聴き進むうち、はっきりと見えてきたアルバム全体を包み込むトーンは、ぼくのよく知っている音楽に近いものだった。ロック・ミュージックの金字塔と言われる、BEATLES(ビートルズ)の「SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)」のことである。あの時、プロデューサーのGeorge Martin(ジョー ジ・マーティン)が、ビートルズの感性を通じて伝えようとしたものを、いま極東の国で再現したらこんな風になるのではないだろうかと聴きながら、ふと考えた。「よりによってあんな名盤を引き合いに出すなんて!」という批判も聞こえてきそうだが、書物に誤読があるように、音楽にも誤聴があったっていい。クラシック音楽も誕生した時はある意味ではポップミュージックだったんだし、ポピュラーとなった民族音楽のひとつなんだと考えると、とっても自由な気持ちになってくる。軽やかにそして同時代的に、文化も様式もシャッフルし表現し尽くそうとする試みは、力強い肯定の意志に支えられていてとても心地よい。音楽のもっている力や可能性が、肯定する喜びを通じてひしひしと伝わってくるのだ。こんな再会なら、何度したっていい。