Above : Good Old Boys (Warner Bros. Records Inc. 1974)
Below : Little Criminals (Warner Bros. Records Inc. 1977)

2007.10.03

時折、古いレコード盤をひっぱり出してはお気に入りの曲を「i-Pod」に移すために録音し直している。先ごろも頼まれることがあって、Randy Newman(ランディ・ニューマン)の30年ほど前のアルバムを5枚ほど録音した。録りながら聴き直すうちにふと以前新聞で見かけたある記事を思い出した。ジャズを愛聴してきた老人が毎日愛蔵していたレコードを1枚づつ携えて図書館に向かい、その場で全曲聴き終えたら寄贈しているという記事だった。ぼくはRandy Newmanの音楽と、このようにまたゆっくりとこれからも向き合うことがあるのだろうか。そう考えたとき老人の気持ちが少しだけわかるような気がした。決して熱心なNewmanフアンではないし、70年代の一時期によく聴いていたというだけで、ぼくは最近の活動ぶりなど何も知らない。しかしNewmanの音楽の本質は変わることはないだろうと勝手に確信もしているのだ。
久しぶり再会したNewmanの世界はもちろん昔のままだった。つまりぼくもあまり成長してないということなんだろう。その頃、誘われて友人たちと一緒に作っていた同人誌の「Rolling Records」というミュージック・コラムにRandy Newmanについて寄稿していたのを思い出し、探して読み返してみた。なるほど、こんなこと考えていたんだな、この若者は。そこでひとつミュージシャンに倣って、今のぼくが当時のコラムをカバーしてみよう。すると、こんな風になる。

ランディ・ニューマンは1943年11月28日、カリフォルニアのロス生まれ。伯父には映画音楽家の巨匠アルフレッド・ニューマンライオネル・ニューマン、そしてエミール・ニューマンがいるという音楽的に恵まれた環境に育つ。特に幼年時代を送った母親の故郷であるニューオリンズなど南部諸州の音楽から強い影響を受ける。長じてWarner Bros. Recordsの専属アレンジャーとなり、すぐれたソングライター、シンガー、ピアニストとして高い評価を得る。とりわけプロデューサーLenny WaronkerRuss Titelmanと共同制作したアルバムは素晴らしい。
決して自身のことは歌わない。彼の世界には死にゆく老人を残酷に突き離す少年や寂しい大金持ち、黒人に自由を吹聴するうさん臭い奴隷商人や、野望と恐怖に嘖まれ原子爆弾に泣きつくアメリカ人たち、はては人間を笑いとばしてしまう神まで登場してきて、さながら脳手術をうけたモリエールの舞台劇のようだ。
そんなグロテスクなアイロニーやユーモアが、のびやかな民謡やスクリーン・ミュージックを彷彿させる甘美な音楽に包まれて差し出されてくる。そう、彼の音楽は、わたしたちが聴いたことがあるような気がするという錯覚を利用して再現された印象的な1シーンなのだ。グレイル・マーカスの言葉を借りれば「誰も作らなかった映画の、決して書かれはしなかった譜面」をいともたやすく書いてみせる。そして彼の音楽を聴くたびに、わたしたちはかつてのアメリカにはこんな知性や良心があったのだと思い出し、同時にぼくらの尻尾だってすでにアメリカ製なのだとも思い知らされるのである。新聞には決して書かれることのないアメリカの呟き。罪深い人間の自嘲と懺悔、そして何処からか彼らに注がれる暖かい眼差し。たった200年で老いてしまったアメリカの追悼歌を紹介しよう。

「Old Man on the Farm」(「Little Criminals」Warner・P-10403W 訳詩:宮原安春)

雨が降るのを待っている
手紙がくるのを待っている
夜明けがくるのを待っている
年老いし農夫
牛から乳を搾り 豚に餌をやり 鳥小屋の掃除
そして納屋でウイスキーのラッパ飲み
おやすみ お嬢さん
長くお邪魔しすぎたらごめんよ
知り合えて楽しかったな
こんな歌い方がおれは好きなんだ