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好楽堂楽器店

K^O^GAKUD^O^
2007.9.21

甲府の中心街にある「好楽堂楽器店」は楽器も買えるレコード屋さんとして長い間音楽好きに親しまれてきた。レコードがCDやDVDに置き替わって久しいが、ぼくは中学生の時代からこのお店に通い、小遣いをためてはせっせとレコードを買い集めてきた。生まれて初めて買ったレコードは、確かアダモのシングル盤「雪が降る」。そこから、シャルル・アズナブール、ビートルズとぼくの無節操な音楽遍歴が始まるのだが、足かけ40年以上、常連というほどではないにせよ、このお店とは細く長〜いおつきあいをしてきたことになる。
近年、櫛の歯が1本づつ抜け落ちるように街中からCDショップが消えていく。そんな逆風の中で、数少ない貴重な生え抜きCDショップとして孤軍奮闘してきた「好楽堂楽器店」。二代目の現社長・塩島好太郎さんは高校のぼくの2年後輩にあたり、奥さんの章子さんと二人でお店を切り盛りしているのだが、たまたま再開発エリアに入ってしまったため、今年9月からの店舗移転を余儀なくされることになった。これを機にお店のイメージも一新したい、とこの春にぼくは相談を受けてから微力ながら新生ショップへ移行するお手伝いをしてきた。育ちの良さととらえどころのなさが魅力にもなっている大陸的な好太郎さんと誠実で秀でた実務能力を持った章子さんの二人に相応しい素敵な商空間となるよう、ぼくなりに工夫をこらしてみたつもりである。そしてこの9月19日、めでたく「K^O^GAKUD^O^」へとその名称も変え、再出発をした。お店は岡島デパート北入口の西隣にあるビルの1Fにある。コンパクトだけど、コラボレートするブティックや雑貨店とも響き合うおしゃれなCDショップへと生まれ変わったのではないかと思う。
「好楽堂楽器店」はGHQの通訳をしたり、甲府警察音楽隊を創設した先代が、戦後まもない甲府の街中に開業した老舗中の老舗楽器店だ。屋号にたがわず音楽や楽器をこよなく愛し、息子に好太郎と命名するほど筋金入りの音楽好きなお父さんだったようで、ぼくも若い頃には何度か見かけたが、寡黙でやけに堂々としていて、いつもお店の奥で音楽の守り神のように座っていたのが印象的だった。
レコード屋さんには大抵音楽にとても詳しい人がいるものだが、このお店にもそんな音楽博士が一人いた。その人、新海繁男さんはぼくより一つ年上。もっぱらぼくはこの人に導かれるように音楽を聴き続けてきたような気がする。19歳で入社して以来30年近くずっと「好楽堂楽器店」で働き続けてきた新海さん。給料の大半をレコードに注ぎ込む時期もあったそうで、ジャンルを問わず良い音楽だけを聴き続けたまさにリスナーの求道者のような人だった。あんまり詳しいものだからNHK甲府放送局の音楽番組にレギュラー出演していたほどである。そんな新海さんが毎月数枚厳選したレコードをぼくのために(勝手に?)取り置きしておいてくれたおかげで、ぼくのレコードコレクションは今でもなかなかの名盤揃いと言えるだろう。時折ぼくがミーハー根性出して流行ものなどを注文すると新海さんは不機嫌になってしまうものだから、そんな時にはこっそり他のお店で買ったりしたこともあったけど、やっぱり何十年経っても新海セレクトのアルバムは少しも色褪せることがない。つくづくそのチョイスは的確だったなぁ、と感心してしまうのだ。ぼくは過去形で書いているが、実は10年前に新海さんは病に冒され48歳の若さで他界してしまった。
新しいお店を見たら新海さんは喜んでくれただろうか。そんな思いを一番強く抱いているのはほかならぬ塩島夫妻だろうが、ぼくもこの仕事に取り組んでいる間、しばしば新海さんの面影を思い返していた。本物だけを愛した新海さん。彼のお眼鏡にかなうお店になっていたら、ぼくはとてもうれしい。


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