The International Design Magazine : Cover
Embody Chair(Titanium / White / Papaya)
Embody Chair Full Front View
Embody Chair Full Back View
Embody Chair Sit View
Embody Chair Back View
Embody Chair Bottom View
Designed by Bill Stumpf and Jeff Weber
(HermanMiller)

パパイヤカラーのPC用チェアー

Embody Chair
2012.10.01

連日、8〜10時間もPCモニターの前に座り続けて仕事していると、当然のことながら運動不足になるし、肩こりや疲れ目にも悩まされることになる。アナログ時代はのんびりしたもので、夕方には一息入れて同じ事務所で働いていた年下のデザイナーとキャッチボールやピッチャーとバッターに別れての二人野球ゲームに興じたりしていたものだった。そんな緩い時間が流れていた時代が今となれば懐かしい。

一週間ほど外出せずに根を詰めて仕事していると、流石に身体があちこち悲鳴を上げはじめる。肩は張るし、腰にも違和感を感じはじめる。ドライアイで目はショボつき、何よりも気が滅入ってくる。そこで、これではいけないと2年ほど前から自転車に乗ることにした。これまで自転車を数十台デザインしてきたけど(といってもプロダクトでなくパーツ類や表面デザインとネーミングのブランド化)ここはやはり品質が安定しているBridgestoneの電動アシスト車を買うことに決めた。電動なんて自転車じゃないよと意見されたりもするけど、扇状地の高台地域に住んでいるので勾配のきつい坂道はさすがに辛い。それに電動だって風を切ると、やっぱりすごく気持いい。冬でも適度に身体が温まるから3kmくらいの往復なら何でもないし、時には車より速く着くことだってある。しかし、乗ってみて初めて気づいたこともある。道路は自転車走行を考慮して作られているとはとても思えない。特に路面の凸凹による衝撃はけっこうきついので、下りなどはほとんど腰を浮かせて走っているほどだ。自転車王国オランダのように、車や歩行者に気兼ねせず快適に走れるサイクリングロードがあったらいいのにと思う。

さて、適度に運動してもPC作業で避けられないのは目の疲れ。加齢も関係しているのだろうが、やはりこれも職業性疾患のひとつといえるだろう。20年ほど前から日常的にパソコンのモニターに向かって仕事をしている。当時のモニターといえば、ブラウン管型TVと同じような格好をした大きなCRT型ディスプレイ。やがて板状の液晶LCD型ディスプレイに代わり、最近は表面がガラス素材のLEDバックライトTFTディスプレイが主流となっている。いずれのタイプも内照式なので、長時間見つめ続けていると、目にさまざまな悪影響を与えることになる。特に問題となっているのが、モニターから発せられるブルーライトといわれる波長が380〜495mmの青色光で、赤色光に較べて散乱しやすく、眼精疲労を引きおこしやすいのだそうだ。一説によるとそれが睡眠障害の原因となったり、体内リズムの乱れを誘発したりと、さまざまな懸念点が指摘されている。特にLEDバックライトになってからは、光がさらに目の深部に差し込むような気がしてならない。

職業柄、モニターの前に座ることは避けられないことなので、近頃は自衛策としてPC用メガネを使用している。モニターから発せられる有害波長(青色光)をカットするこのPCメガネが発売されたのは、ここ2年ほど前のことだ。度付きと度なし、ブラウン(50%カットする吸収型)とクリア(37%カットする反射型)の2タイプの中から自分に合ったものを選んで組み合わせることができる。ブラウンは吸収率は高いが全体に茶色がかって見えるため、微妙な色あいを判断しなくてはならないこの仕事には向いていない。ぼくは近視でやや老眼ぎみだから、度付きメガネはかけずにモニターには裸眼で向き合っている。そこで今回は度なしのクリアタイプを注文してみた。有名なブランドは「Zoff」と「JINS」。度付きメガネは「999,9(Four Nines)」を幾つか愛用しているけど、この2つのブランドもフレームは豊富に用意されていて、なかなかカジュアルで好感もてるデザインが多い。いずれも機能性や価格には大きな差はないが、ネットの書き込みを読むと一長一短で迷ってしまった。やっぱり実際に使ってみなけりゃ分からない、ということで2社から買って較べてみることにした。

使用後の感想として、目の疲れが劇的に改善されたという実感はまだないが、以前より間違いなく目が受けるダメージは少なくなっているはずだ。2つのPC用メガネを比較すると、「Zoff」のレンズは外観は透明度が高いのに、モニター色は「JINS」より茶色がかってしまうし、なによりも反射型では避けることのできない周囲の映り込みが強く、気になるのも減点となる。というわけで、ぼくのPCメガネは「JINS」に軍配が上がった。

運動不足と眼精疲労に続く課題として、次に肩こりと腰痛の改善に取り組まなければならない。以前、ひどい腰痛に悩まされた時期に自動車のシートをレカロに交換したことがある。これでかなり楽になったので、堅めのシートで完成度も高いと定評のあったドイツ車に乗り換えてほぼ腰痛が収束に向かっていった経験から、今回はパソコン専用の椅子を探してみようと思い立った。昔から椅子には興味があった。でもそれは人間工学的な興味からでなく、むしろ好きな工芸品をコレクトしたいというデザイン嗜好からだった。椅子は小さな建築物だと言う人もいる。そういえば、昔から建築家がデザインした椅子の名作は数多い。モダンファニチャーブランドCassina(カッシーナ)からは、LIMA chairやヘーリット・トーマス・リートフェルト作のZIG-ZAG chairKnoll Japan(ノールジャパン)からは、Eero Saarinen (エーロ・サーリネン)Saarinen chairHARRY BERTOIA(ハリー・ベルトイア) と、そのときどき心惹かれた椅子を購入してきたが、そうしたチェアー談義はいずれ機会を改めたい。

これらクラシックモダンの椅子はどれももちろん座り心地は良いのだけれど、パソコンのない時代のプロダクトなので、当然PC用にはデザインされていない。現代のPC用チェアーといえばAaron Chair(アーロンチェアー)が有名だ。言わずと知れたHermanMiller(ハーマンミラー)の1994年デザインのヒットシリーズ。長い伝統をもつハーマンミラー社はミシガン州の田園地帯に本社を構え、かのイームズを世に出した会社としても知られている。アーロンチェアーはMoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久コレクションにも加えられているが、何と言っても人気の秘密は体型や使用環境に応じて細部調整が可能な、そのカスタマイズ機能にある。慢性的な肩凝りや腰痛に悩むユーザーからの支持も厚いそうだが、ぼくは最初に見た時から、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーが座りそうな雰囲気にちょっと気持ちが退いてしまっていた。そこであれこれ検討しながら探し出したのが、やはり同社の上位モデルとなるEmbody Chairs(エンボディチェア)だった。機能性はもとより、張地のカラーが素晴らしい。用意されている13色の中でも、黄色(パパイヤ)とオレンジ(マンゴー)、そして真っ赤(トマト)の3色が出色だ。しかしそのいずれも現在製造中止で入荷の見込みもたっていないというではないか。こうなると意地でも探してやるぞと決意して、毎晩ネット検索してやっと見つけた1台が一番欲しかったパパイヤで、ラッキー!おそらく日本に残っていた最後の1台だったのかもしれない。(今年の運をこれでかなり使ってしまった)

届けられたエンボディチェアは、屈強の運送屋さんが一人じゃ持てないと泣きを入れるほど重かった。(たぶんキャスター部分の重量だろう)独特のクッション効果を持つオールメッシュチェアの代表作で、新しい運動学が採用されているため98%の成人の体型にフィットするのだそうだ。自分の体型や姿勢の癖に合わせて調節できるのはアーロンチェアーと同様だが、最も特徴的な機能は座っていても身体を動かすことができること。しかもリクライニングしても頭の高さが殆ど変わらないため自然な姿勢を保ちながらモニターを見ることを可能にしてくれる。

椅子の背を見るとまるで背骨のようだ。初めて見た人はドキッとするかもしれない。でも、自分の背骨の形状に合わせることができるこの背もたれは、まるで生きているように姿勢の変化に対応してくれる。座っていても自然に身体を動かすことは、カラダにとってもアタマにとってもとても重要なことらしい。それによって身体の組織にかかるストレスが軽減され、血流を促すことで脳が活性化して思考も集中しやすくなるという。ホントかいな、と思ったりもするけど、何日かかけて自分の体型に合わせて調整してからの座り心地は、確かにとても良い。座ったときの圧迫感も殆ど感じないし、皮膚のように柔らかくて通気性のあるテキスタイルの感触も心地よい。

さて、これで思いつく範囲のPC作業への対策は講じてみたものの、その効果が体感できるのはもう少し先のことになるだろう。アタマと手が20世紀のデザイナーにとって調和とバランスのキーワードだったとすれば、21世紀はアタマとカラダということになるのだろうか。視力が落ちれば眼鏡をかけ、歯が抜けたら入れ歯でしのぎ、そのうち補聴器やギブスやペースメーカーのお世話になるのかもしれない。そうして加齢とともにプチ・サイボーグ化していく自分のカラダとアタマは、追いつ追われつの雁行関係を演じながら根気よく折り合いをつけていくしかないようだ。


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