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2012.3.03

Golden Slumbers

Once there was a way

To get back homeward

Once there was a way

To get back home

Sleep, pretty darling, do not cry

And I will sing a lullaby

Golden slumbers fill your eyes

Smiles awake you when you rise

Sleep, pretty darling, do not cry

And I will sing a lullaby

Once there was a way

To get back homeward

Once there was a way

To get back home

Sleep, pretty darling, do not cry

And I will sing a lullaby

この『ゴールデンスランバー』は1969年に発売されたビートルズの事実上のラストアルバムといわれる「アビーロード(Abbey Road)」の挿入歌でB面の大部分を占めるメドレーのオープニング曲。メドレーの作者であるポール・マッカートニーが義妹に絵本を読み聞かせていた時に見つけた、トマス・デッカー(Thomas Dekker)作の子守唄に手を加えて作られた曲だといわれている。ぼくらの最高傑作のひとつだったと評するポールに対して、ジョン・レノンは「あれはジャンク」とそっけない。でもぼくは昔からこの曲がとても好きだった。日本では伊坂幸太郎同名作品にもたびたび登場しているし、映画化された同作の主題歌は斉藤和義がカバーしている。

かつてそこには家へと続く道があった
おやすみ 愛しい人
どうか泣かないで 子守歌を歌ってあげるから
黄金色のまどろみが瞳に満ちるよう

この「Golden Slumbers」は1曲だけ取り出して聴いても何となく尻切れトンボ。メドレーとしてカップリングされた「Carry That Weight」「The End」までセットで聴かないとこの曲のよさはなかなか伝わってこない。ユーチューブにはアビーロードのオリジナル音源にボーカルテイクのみをフィル・コリンズが被せている動画がアップされていて、これがなかなかイカシテル。(最下部のアドレスでぜひご視聴あれ。おっ、ミキシングルームに腰掛けている老人は、あのジョージ・マーティンではないか)もちろんオリジナルのポールもいいけど、フィルの歌声はいつ聴いてもいい。そういえば1982年に大ヒットしたダイアナ・ロス&スプリームスをカバーした「恋はあせらず(You Can’t Hurry Love)」も不朽の名作だった。
さて、孟浩然の漢詩『春眠』の有名な一節「春眠暁を覚えず」ではないけれど、春が巡ってくるたびにこの黄金色のまどろみがよみがえってくる。どうして春になると布団から出るのが辛くなるんだろうか。気温の変動が激しいために自律神経の調節がうまく機能しないことによって引きおこされるとか、新陳代謝が活発になることでビタミンB1の摂取が不足しがちになるからだとか諸説あるようだ。日本人は白米でお腹をふくらせてしまうからどうしてもB1が不足してしまい、世界の中でも居眠りをよくする国民なんだとか。たしかに電車の中などでコックリしている人けっこう多いし。
必要な睡眠時間は体の大きさに依存するという。例えばネズミなどの齧歯類(げっしるい)では15〜18時間、猫は12〜13時間、犬は10時間で象は3〜4時間、キリンはわずか30分から1時間弱でも充分らしい。それは大きいほど代謝率が低いため、脳細胞の障害を修復する必要が少ないからだという。日本人の平均睡眠時間はというと、平日は7時間26分、土曜日が7時間41分、日曜日なら8時間13分というNHKの調査もあるが、歳をとるにつれ代謝率も下降するのか、眠りの浅いぼくは毎日6時間台の睡眠時間だが、さほど眠気を感じることはない。
ところで以前定期購読していた「スタジオボイス(STUDIO VOICE)」で楽しみにしていたコラムがあった。それは写真家のホンマタカシさんが、同じ写真家である中平卓馬さんに宛てた、便り仕立てのテキストをホンマさんの写真とともに掲載した『中平卓馬の日常 きわめてよいふうけい』というコラム。(この「きわめてよいふうけい」は2004年にリトル・モアから発刊され、また映画化もされている)毎号、中平さん直筆のメモも添えられていて、例えばそこにはこんな風にとても簡略な言葉が並んでいる。

9月30日 私、午前1時50分、眠り始めた。私、7時覚醒。昼寝1時間可能!!
12月3日 私“薬”飲まずかなり早くから眠り、午前7時34分覚醒。昼寝極力阻止!!
12月5日 私、午前1時50分、眠り始めた。私、7時30分覚醒。昼寝30分可能!!

関心あるのは眠ることだけなのか、ほとんど睡眠に関することしか記述されていない。中平さんという人は外出する時は電話の時報で腕時計を的確化するほど、時間に対して厳密な人だったらしい。Wikipediaの経歴欄には、1977年に酔いつぶれて昏睡状態に陥った中平さんは、その後意識は回復したものの言語能力と記憶に障害が残るとあった。そんなアクシデントもあって正確に睡眠時間を管理しようとしていたのだろうか。
メモを見ると、どうやら中平さんは1日6時間の睡眠時間を固守しようとしているかのようにみえる。寝てはいけない(または眠れない?)という制約のなかで、眠ることが許されたひとときは何ものにも代えがたい喜びをもたらしてくれる。「あと○○分睡眠可能」という言葉からは、眠ることへの無上の喜びが伝わってくる。そこに背徳感がほんの少し伴うと、その喜びは倍加する。それを味わいたいがために、ぼくはちょっと早めにアラームをセットした時期もあった。
カミングアウトしよう。ぼくは何を隠そう「抱き枕」愛好者である。大きな明太子みたいな白い愛用の抱き枕を右向き姿勢で抱えないとなかなか眠りにつけない。だから所用でホテルなどに泊まったときなどは備え付けの枕を抱えるのだが、きまって睡眠不足になってしまう。今使っている二代目の抱き枕はネットで探した商品「王様の抱き枕」。内部は超極小ビーズとポリエステル綿の混合素材が詰められている。それに生地はスパンテックス素材だから、頬ずりしたくなるようなさらさらした肌触りですごく気持ちいい。豪放磊落で強面の人物が、実は部屋の隅に布団を敷いて壁に張り付くような姿勢でないと寝られないなんて話を聞くと思うのだが、布団には包み込む人間を素に戻すチカラがあるのかもしれない。
また、布団に潜り込むといまでもふと思い出すことがある。子どもの頃、父方の祖母が暮らす田舎の家に遊びにいくと、寝るときはいつも祖母と枕を並べて布団に入った。すると祖母はよく独り言のように「寝るより楽は無かりけり 浮世の馬鹿が起きて働く」と呟いた。そしてそのあときまって「クックッ」と小さく笑うのだった。生きるためには寝る間も惜しんで働かなければならないような環境で育ち、祖母にはまとまな教育も受ける機会がなかった。字の読めない祖母に代わって、ぼくは届いた手紙をよく代読したものだった。「浮世の馬鹿が起きて働く」という呟きと、それに続く小さな笑い。そこには一体どんな思いがこめられていたのだろう。
さて、音楽で始まったから音楽の話で締めくくろう。小鳥のさえずる声で目覚めるなんて素敵だけど、年中いつも小鳥の声を聴くことはできないから、やはりアラームをセットすることになる。いろいろ試した末に、今一番のお気に入りはケティル・ビヨルンスタ(Ketil Bjornstad=ノルウェーのピアニスト)のアルバム「バッハ・ヴァリエーションズ」の巻頭曲「バッハ平均律 プレリュード(bwv849)」。このすごく有名な曲をケティルは、閉鎖直前の(オスロで有名なスタジオ)ローゼンボルグ・スタジオで悠々と奏でる。とくにイントロの10秒くらいは絶妙で気づくとそこに音楽が立ち現れていたという佇まいが憎らしい。このところ朝とはとてもいえない時刻だが、iPhone4Sのアプリから流れるこの曲で目覚めている。アラームは最初の数秒が勝負だと思う。でも大概のアラームはこの繊細さに欠けている。繊細なアラーム音なんて意味ないじゃんという声が聞こえてきそうだが、へそ曲がりのぼくにはやはりこのケティルの平均律が一番相応しい。でも最近YouTubeでみつけたバーチャルシンガー(音声合成)初音ミクの平均律もなかなかにカワイイので、夏になったら一度試してみようかと思ってる。