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RitaOra
Kyla La Grange
Anne Marie
Calum Scott
Ed Sheeran
Justin Bieber
古坂大魔王
Justin Bieberとピコ太郎

2018.3.02

ぼくはDJの草分け小林克也さんが大好きだ。克也さんが1975年に桑原茂一とプロジェクトを開始して、その翌年に伊武雅刀を加えたスネークマンショーには、ラジカルなコントに挿入される先鋭的な選曲センスを存分に楽しませてもらった。その克也さんも1941年生まれで今年76歳。2006年に胃がん、2012年には前立腺がんを患ったものの見事に復活し、今年「小林克也&ザ・ナンバーワン・バンド」名義で25年ぶりのオリジナルアルバムを発表するなどと気を吐く永遠のロック小僧ぶりは健在だ。その彼のライフワークともいえる洋楽番組「ベストヒットUSA」は1981年にスタートしている。中断もあったが2003年からはBS朝日で復活。欠かさず見るというほどでないが、ぼくはチャンネルサーフィンで放映中だとつい見入ってしまう。ロックの創成期からずっとリスナーとして並走してきたからこそ見えるポップスの神髄をシンプルなコメントで伝えてくれる克也さんは伝道師として、今とても貴重な存在だ。

しかしベストセラー書籍と同じで、万人受けするポップミュージックはめったに琴線に触れることがなかったので、ぼくはずっと和洋ポップスから遠ざかっていて、一癖も二癖もある音楽ばかり好んで聴いていた。海外のポップスを耳にする機会は少ないが、国内のヒット曲などは日頃テレビから流れてくるのでそれなりに触れてはいた。しかし、どれを聴いても同じテンポの一卵性双生児のような曲ばかりで見分けはつかないし、もちろん琴線に触れることもない。それでも英語のフレーズをサンドした早口歌詞に耳を澄ますと、思いのほか生真面目な内容だったりするので楽曲とのギャップに軽く驚いたりもするのだが、「ベストヒットUSA」を見ているそんなぼくに克也さんは「いやいや、中にはイカしたやつもあるんだぜ。こんなのはどうかな?」とヒット曲を毎週見繕って聴かせてくれる。

昔はラジオにかじりついて音楽番組に夢中になっていたが、今はミュージックビデオ。つまり楽曲をアピールするために制作された曲とイメージが統合されたいわば短編映画と一体で味わうのが一般的な音楽の楽しみ方となっている。業界的に表現すれば、音楽録音の販売促進を目的としたマーケティングデバイスということになるのだろう。それにともなって聴き方もラジオから流れる曲を受信して想像力を駆使しながら自己編集していた聴き方から、一方的に発信されるイメージを受け止める味わい方に変化している。ミュージックビデオの発祥はザ・ビートルズにまで遡るという説が一般的に浸透しているようだ。新曲がリリースされるたびにテレビ番組に呼ばれることにウンザリしていたビートルズは、演奏シーンとイメージ映像をドッキングさせた映像作品を発明した。それがミュージックビデオの起源であるという説だ。こうした現象は1980年代にアメリカに登場したMTVで急速に一般化していった。 (MTVとはMusic Televisionの略でニューヨークとロンドンに本部を置くアメリカの若者向けのケーブルテレビ・チャンネル)

はじめの頃はライブパフォーマンスを撮影したビデオが主流だったが、次第にアニメーションを含む幅広い撮影技術を駆使したさまざまなアプローチが試みられるようになってきた。そしてミュージックビデオは1983年にリリースされたマイケル・ジャクソンの「スリラー」で一気に市民権を得ることになる。「スリラー」は、いうまでもなく有名なおよそ14分にもおよぶホラー映画風のショートフィルム。特殊メイクの狼男やゾンビが繰り広げる演技やダンスが楽曲と渾然一体となった作品は当時のミュージック界に衝撃を与えた。ちなみにこの作品はショートフィルム史上初のアメリカ議会図書館永久保存フィルムとなっているのだそうだ。当初は映画監督が手掛けることが多かったが、やがてミュージック・ビデオ専門の監督が誕生する。逆にそこから映画監督に転身した人物も多いという現象まで生まれていて、ポップミュージックは聴覚と視覚を一体化した表現として日々世界中で生み出されている。

昨年末だったか、いつものようにぼくが「ベストヒットUSA」を観ていたら、2017年の総括番組としてビルボード (Billboard) シングル年間ヒットチャートが紹介されていた。アメリカで最も有名な音楽チャートであるBillboard Hot 100からベスト20曲が流れてきて、「なるほど、これが今の洋楽シーンのサウンドなのか」と聴いていたら何だか興味がわいてきた。実はこれには伏線があって、ぼくはカナダのポップミュージシャン、ジャスティン・ビーバー(Justin Drew Bieber)のアルバムや曲を何十曲もダウンロードして愛聴していたのだ。これもきっかけは「ベストヒットUSA」である日流れていた「What Do You Mean?」。ビーバーは才気溢れる青年だが、驚いたのは彼の世界観を腕利きプロデューサーや名うてのプロたちが綿密なチームワークによって協働作業しながら実現していたことだ。新世紀のポップミュージックは個人からチームにバトンタッチされたかのようで、それからというものぼくはビーバーの曲を集めては楽しんでいた。イマだなぁと感じたのは、徹底してデジタル編集されたクリアでシャープなサウンド。80年代ロックが地上波時代のモゴモゴとしたサウンドとすれば、ビーバーサウンドは4Kや8Kといったエッジの効いた高解像度音。そして音源の位置まで感じさせる、いわばハイレゾ的な広がりと余韻までも再現されている。さらに表現力を支えるテクニックも格段に進化している。彼に限らず世界的な現象としてテクニックはすごく底上げされていてみんな当たり前に上手なので、懐メロがやけに素人くさく感じられてしまう。もちろん昭和の味わいも否定はしないが、やはり時代は確かに流れているんだと実感する。もちろん、音楽を成立させる原形は魂のバイブレーションであることに変わりないし、技術やテクニックが魂にバイブレーションを起こすわけでもない。ただ、受信機の基準値が変化しているのは事実なので、それを念頭に表現と向き合わなくてはならない。これはなにも音楽に限ったことでなく、多くのジャンルの共通現象でもあるんだと思う。

そこでぼくはYouTubeで2017年のBillboard Hot 100を全曲チェックして、そこから30曲ほど気に入った曲を選び、暇さえあればiTunes Storeで楽曲購入しては、就寝前や車中や散歩中のBGMなど様々なシーンでじっくりと聴いている。すると少しずつ気づくことも出てきたのだが、例えばイントロが一様に短い。この謎はすぐ解けた。楽曲はiTunes Storeなどからネットで1曲買いするのが主流となってきているので、購入するかどうかは30秒ほど可能な試聴で判断される。つまり、昔のような長〜いイントロはすぐスルーされてしまうのだ。必然的に、瞬時に心を掴む楽曲組み立ての工夫が求められてくるわけだ。ちょっと世知辛い傾向ではあるが、これも時代の要請なのだろう。また、音が隅々までデジタル化されているから、音像がくっきりと粒だって感じられるので刺激的。触覚的ですらある。ぼくが夢中になって聴いていた頃の音楽、たとえばロックバンドの典型的編成といえば、ボーカルの両サイドにリードギターとリズムギターが控え、バックでベースとドラムスが支える編成。そこに時にはキーボードなどが脇から情感を醸し出す。こんな感じだったが、現代の楽曲構造はほぼデジタル音で組み上げられていて、ボーカルでさえ一つの楽器と位置付けられている印象がある。歌い演奏するミュージシャンが主役だった時代から、制作環境も大きく変わった今、その座は楽曲を組み立てるプロデューサーにバトンタッチされたかのようだ。必然的に音楽を創る人々の意識やそれに伴うスタンスも微妙に変化してくる。たとえば音楽と向き合う自身を冷静に俯瞰する視点、そして楽曲がどのように時代と関係性を結んでいくのか戦略的に構想する視点などが求められている新世紀のポップミュージックは実にクールだ。もちろんこれはぼくの私感に過ぎないのだが…。

その良い例が「PPAP」。2016年にYouTubeに投稿された「PPAP (Pen-Pineapple-Apple-Pen) =ペンパイナッポーアッポーペン」で一躍注目を浴びたピコ太郎こと古坂大魔王(本名・古坂和仁)は所謂ポッと出芸人ではなく、お笑いタレントやDJと並行して、テクノを取り入れた音楽コントなどを模索してきたミュージシャンの経歴を持つ人物だった。彼がテレビで「PPAP」誕生にまつわる話をしていて、これはなかなか興味深かった。わずか45秒の「PPAP」はギネス世界記録「全米ビルボードトップ100に入った世界最短曲」として認定されたとして話題になったが、この45秒間に古坂のさまざまな試行錯誤の成果が詰め込まれていたことがこの番組で明らかにされていた。例えばリズムを彼は100パターン以上用意して、どのスピードが楽曲コンセプトにもっとも相応しいか検討したそうだ。早すぎても意味が定着する前に流されてしまうし、逆に遅すぎると間延びして独特のユーモアが伝わらないと、間合いや強弱にも計算を尽くしている。また、制作予算がわずか10万ということもあって最小限のシンプルな設定にしたことが功を奏し、その真っ白いバックが子どもでも簡単に真似出来るダンスを際立たせているし、エンディングのヘロヘロ音も「偉そうな荘厳なサウンド」から「未知との遭遇風のサウンド」やら幾つものバリエーションから選び出されている。新旧の電子楽器を駆使して綿密に組み立てた戦略的かつ計算し尽くした制作方法は、現代の音楽界を席巻しているポップミュージックの制作方法に極めて近い。古坂はジャスティン・ビーバーを頭の隅にどこか意識しながら作ったと告白していたが、結果は彼の目論み通りとなった。「PPAP」が世界的に一気に拡散されることになったのは、この動画を見たジャスティン・ビーバーがツイッター上に紹介した「インターネット上の私のお気に入り動画」だったことは有名な話となっている。古坂大魔王は青森県青森市出身の44歳。2015年から青森市観光大使を務めている。かたや、その古坂がプロデュースするシンガーソングライターのピコ太郎は千葉県出身の54歳。78歳の新婚妻がいるとディティールもかなりきめ細かい。同一人物、一人二役なのにあくまでも二人は別人格という設定となっている。こうした物語を遠景として戦略的結晶の45秒の楽曲が据えられている。

ところで、Billboard Hot 100にランキングされている曲にラップ系の音楽が多かったのは意外だった。アメリカの若者がこれほどラップ好きだったとは!ラップはどちらかと言うとぼくの苦手なジャンルなので、魚の骨を選り分けるように避けてピックアップしたサウンドは、ロック・ブルース・ソウル・ラテン・カントリー・レゲエ・トランス・アフロ・アラブ・エレクトロニカ・ケルティック・サルサ・テクノ・ファンク・ヒップポップ・フォーク・ヘビメタ・マンボ・R&B・アンビエント等々、あらゆるジャンルの多様な地域性がフレキシブルにブレンドされていて、ここにあるのは分断された現実とはまるで別世界。人々の無意識に潜む願望が選びとった希求がポップミュージックの間から透けて見える。食わず嫌いだった最近のポップも向き合ってみると、なかなかどうして面白い。音楽に身をゆだねる快感に新旧はないのだから、もちろん昔の懐かしさも捨てがたいが、たまには新しい風に吹かれてみるのも気持ちいい。

※紹介写真ミュージシャンの各楽曲試聴は↓こちらから。

Rita Ora – Anywhere (Official Video)

Kyla La Grange – Cut Your Teeth

Anne-Marie – Ciao Adios [Official Video]

Calum Scott – You Are The Reason (Official)

Ed Sheeran – Perfect (Official Music Video)

Justin Bieber-What Do You Mean?

PIKOTARO(ピコ太郎- PPAP(Pen-Pineapple-Apple-Pen Official)ペンパイナッポーアッポーペン

PPAP (Pen Pineapple Apple Pen) (Long Version) [Official Video]